お忙しい方向けのPDFを配布中
私たちの担当した事例を、読みやすいPDFにしてまとめました。サイトを見るお時間が無い方は、ぜひ無料でダウンロードしてみてください。
無料で資料ダウンロード新型コロナウイルスがナイトカルチャーに壊滅的なダメージを与えているいま、毎日のようにフロアを特別な空間へと彩っていたDJはどんな思いで毎日を過ごしているのでしょうか。
NEWSKOOLでは『Night Design Lab』の運営にあたって、行政やビジネスサイドだけではなく現場の声が大事だと考えています。いま、厳しい状況に置かれているDJが何を考え、どう行動しているのかを社会に伝えることはこの媒体のミッションのひとつです。
今回は、代表のyossiと同世代のDJ、3人による鼎談が実現。多国籍なメンバーが集まるクリエイティブコレクティブ「tokyovitamin」のひとりとして活動するVick Okada、世界各地からDJを招聘するパーティー「解体新書」の開催や、クラブミュージック情報サイト「HigherFrequency」の編集・執筆、下北沢にオープンしたクラブ「SPREAD」のブッキング・PRなど多岐にわたって活動する Romy Mats、ハウスミュージックを基調としたDJのコレクティブ「CYK」のKotsu。
日本のクラブカルチャーシーンの多様性を支える94年前後生まれのDJは、どんな価値観を持ち、どんな課題感を抱いているのでしょうか。
──まずは3人が共通してもっている、社会課題への関心の高さついて教えてください。例えば戦争や表現規制、人権問題などあらゆる自由に関わる問題への抵抗を示した「渋谷プロテストレイヴ」や、ライブとトークが同時進行する「THE M/ALL」への参加。SNSでも社会課題について発信していますよね。他の世代よりも積極的だと感じます。どうしてなのでしょうか。
VICK tokyovitaminは、海外のバックグラウンドを持つメンバーが多いので、Black Lives Matterについても積極的に話し合っていました。tokyovitaminのひとりでアメリカ育ちで高校卒業してから日本に来たDuke of harajukuとぼくとで、配信番組をやってみたり。
Romy Mats そもそも、ダンスミュージックというカルチャー自体がそういったカウンターの歴史を持っています。LQBTQIAの人たち、また黒人といった歴史的にマイノリティとされ人権を侵害されてきた人々が精神を解放する場所、またはカウンターアクションを起こす場所としてクラブがあった。ダンスミュージックを深く知れば、音楽と社会的な要素が不可分であることがわかってくる。
でも、それだけじゃないと思っています。特にぼくら世代のDJが社会課題に関心を持つようになったのは、同世代で「SEALDs」を牽引していた奥田愛基くんの影響は小さくないです。彼は音楽がとても好きで、社会課題と音楽をつなげるようなパーティーを企画していました。そこには大御所のDJから無名のラッパーまでいろんな人が出演して、社会的なメッセージを表明していた。そういったシーンをつくっているのが同世代だということは、社会課題を考えるきっかけのひとつです。
Kotsu そもそも、日本はクラブカルチャーへの理解が薄い。だからぼくたちが遊んでいる日常が脅かされやすいというのもあると思います。だからこそ、自分たちで守らなきゃって危機感がある。ぼくらは特定のスペースを、特定の時間、自治しているんです。その空間を守るためには、何を大切にするかきちんと宣言することはとても大事だと思います。
──クラブカルチャーが持っている本質的なメッセージに向き合う3人にあらためて聞いてみたいのですが、ナイトカルチャーの価値についてどう思いますか。アムステルダムのナイト・メイヤーを務めたミリク・ミラン氏は、「夜」の価値を3つに定義しています。 “ナイトタイムエコノミー”と言われる夜間の経済活動。 “ナイトカルチャー”という新しい実験的な文化が生まれる機会。 “ナイトソーシャライジング”と言われる、昼の肩書を忘れて交流を深める夜独特のコミュニティ。これらが循環していくことに価値があるんじゃないかと。
Kotsu ぼくは3つともとても納得です。特にナイトソーシャライジングの価値は高いと思います。クラブでは、誰かと10分くらい話して盛り上がった話題を、違う誰かとまた話して、アイデアをどんどん膨らませることができます。たまたま集まった人同士で生まれる偶発性も面白い。コロナ禍でDJの配信も盛んですが、こういったことはオンラインじゃできない。居酒屋で飲んでても生まれない価値です。ぼくたちにとっては当たり前ですけど、一般の人は馴染みが薄いことだと思います。こうやって整理して説明できるのはいいですね。
Romy Mats Kotsuも、VICKもナイトソーシャライジングで出会った友達。いろんなパーティーにいって、いろんな人と話し、クルーが生まれて、いまここに3人が代表して集まってるわけです。でもKotsuの言うような夜のフィールドに居ない一般の人たちに理解してもらうことを大事にしつつ、もっと一般の人たちにもこちら側に来てほしいなとも思います。
Kotsu 昼派の人と夜派の人でディスカッションしたら面白いかもしれません。
── ぼくもすっかり夜派なので3つの価値にはとても納得してるんですが、一般の人の感覚とは乖離があるんだろうと思っています。
Romy Mats その距離は常に感じてますね。
Kotsu 今回の新型コロナウイルスではっきりしたと思います。クラブの自粛要請や補償問題など、課題が見えてきました。
Romy Mats コロナ禍を経て思ったのは、日本ではやっぱりDJが職業としてちゃんと認められていないんですよね。検定とかプロライセンスとかで仕切り始めたら、それはそれで凄くダサいし、どこからがプロフェッショナルDJなのかの判断は難しいですが、少なくとも人前でDJをすることで生活している人は日本にもそれなりにいる。ナイトカルチャーのマーケットだって大きいのに。
── 3人は海外も含めてさまざまな街でDJをしていますよね。いろんな街で音楽の現場に立ってきた経験から、いまの渋谷をどのように感じていますか。
VICK ミュージックバーと呼ばれるような、クラブでもライブハウスでもないベニューが増えていますよね。新しいクラブもオープンしているし、街がどんどん変わっていることは肌で感じます。でも、そこに自分たちが愛着を持てるかどうかはまだわからない。ベニューに種類があるということは、それぞれに「そこが楽しい」と思うお客さんがいることだし、自分がパーティーをしたいかどうかは別にして悪いことではないと思います。誰しも遊び場が必要ですから。
Kotsu 企画メンバーに20代が入ってないければ、20代にとって魅力的な場所にはならないですよね。仮にそういう場所でぼくたちがプレイしたとしても20代に対しては説得力が出にくいかなとは感じています。ぼくらのパーティーには、そのパーティーのために電車を乗り継いて遊びに来てくれる人も多い。オリジナリティを高めれば、来てくれる人は来てくれるんです。そうなると、渋谷に次々とできている商業施設のラウンジとかでDJする意味がどこまで高められるかは色々挑戦しつつもまだ答えが出ていません。
Romy Mats 新しいスペースは、DJやアーティストのニーズが無視されていることが多いように思います。インバウンドありき、デベロッパーありきで、ビジネス的な側面が強く、クリエイティビティを刺激するような設計ではない。もっとぼくらにも意見を聞いてもらえたほうが、場所への愛情だって芽生えるんですけどね。
── 空間づくりもビジネスについても、どんどん意見を求めたほうがいいですよね。
Romy Mats どんどん聞いたほうがいいと思います。DJにとって心地の良いブースのほうが、間違いなく良いDJができる。
── もっと渋谷が良くなるために、こうなればいいのにというアイデアはありますか。
Kotsu クラブとクラブ以外の要素が、もっとつながって、幅広く遊べるようになればいいのにって思います。クラブ遊びに慣れていなかったころ、渋谷になんで来るのか思い返せば、例えば洋服を買いに来たりしてたわけです。買い物に来る人が多いなら、近くのクラブに遊びに行くような動線をつくればいい。でも、そもそもいまの渋谷を考えると、若者が昼間に溜まれるような場所が少ない。それじゃあ、難しいよねって思います。
Romy Mats いまの渋谷は、統制されすぎているように思うんですよ。新しい商業施設はどこも「THE商業施設」で目新しさがないし、文化の薫りがしない。ぼくが勝手に憧れている90年代の渋谷は、もっとぐちゃぐちゃで自由だったと思うんです。いまは、自由さがない。マーケティングされてすぎていて気持ちが悪いですよね。
VICK tokyovitaminは、遊びに行く場所も遊ぶ人も違うような、ジャンルレスな「コミュニティ」なんです。ぼくらの周りを見ていると、ヒップホップ界隈からハウス界隈に遊びに行ったり、その逆もあったりして、とてもいいなぁと思っています。意外と違いがあっても仲良くなれるんです。もっと自由に、自分の好きなように動けることが、街にも大事なことかもしれません。
Kotsu ぼくたちが「渋谷っぽい」と感じるポイントってそういうところなんですよ。他ジャンルのカルチャーにもどんどん参加してみる。渋谷のナイトタイムに満足できないからこそ、とにかくいろいろ遊び尽くしたくなる。いろんなジャンルがそれぞれ充実していたら起きないことだと思うんです。不足しているからこそ、ジャンルを超えた混ざり合いが生まれる。ぼくも遊ぶときははしごすることが多いです。いろいろなジャンルを取り込みたいから。実際、渋谷でパーティーをやってると、一見やんちゃそうな若いスケーターたちが、ふらっと入ってきたりすることもあって面白いです。
── それはうれしいですね。下の世代の子たちとの関係はどうですか。交流はありますか。
Kotsu ジャンルに縛られないで遊ぶ子が多い印象です。遊びという選択肢のなかに、クラブもあるし、ヒップホップのライブもある。さっきの若いスケーターみたいな子が突然来ても、しっかり踊ってくんですよ。「踊る」っていう身体的な動きが、ちゃんとインストールされている。ぼくが20歳のころは、クラブに行っても踊り方なんてわからなかったですよ。
VICK 最近は、自分の立ち位置が変わってきました。パーティーに年下も増えてきています。これまで、上の世代のやってることと自分たちのやりたいことを混ぜながらやってきました。同じように若い子たちもがんばってるし、それを聞かせてくれたりするのはうれしいです。たくさん遊んで、たくさん失敗したら良いと思います。とにかくいろいろやるって大事だと思うので。
Romy Mats ぼくもパーティーを主催して、すごい赤字を出して心が折れかけたこともありましたけど、それでもどうにか続けてきました。結果的には、お金以外でたくさんのものを得られて、その経験はいまに活きています。リスクに直面するのは怖いけど、自分が思っているよりも親身に助けてくれる人は周りにいると思いますし、意外とどうにかなるので、下の世代の人たちにもどんどん挑戦していってほしいですね。
── 最終的には、経済性とのバランスを考えなければならないから難しいですよね。どうしたら経済と文化が両立できると思いますか。
Romy Mats これまでの経験でつくづく思い知ったのは、ぼくは稼ぐ才能がないってこと(笑)。これまではそれでも無理矢理やってきたけど、持続性のことを考えると、いまはバランスを取ることも大事だと実感しています。だから、例えば、パトロンのような人が現れても良いんじゃなんじゃないかと。KotsuもVICKも面白いことをやり続けているので、そこに投資したい人もいると思うんです。
── クラウドファンディングではなく、パトロンですか?
Romy Mats そうです。中世のパトロンみたいな。モーツァルトやベートーヴェンといった音楽家にもパトロンがいたように、資本を持っている人とクリエイターのマッチングが適切にできればいいんじゃないでしょうか。
── それは広告とかでもなく?
Romy Mats はい。別に広告でも良いんですけど、これを宣伝してくれとか、このロゴ出してとか、例えばクリエイターと企業のブランディング意図が合致すれば良いですけど、そこが上手くいかなかったらややこしいじゃないですか(笑)。純粋に投資してもらって、受ける側であるDJやクリエイターは、自分ならではの技能でお返しをしたり、もっと単純にロイヤリティをバックするようなやり方がいいなと思っています。ただ、待っていてもしょうがないので、いつどのように実現できるかはまだ相談中ではありますが、解体新書ではメンバーシップを募りたいなと思っています。もちろんリターンも用意して。こんな時代ですから、クラブに行けない環境下にいる人でも、クラブを守りたい、パーティを守りたい、そういったカルチャーを助けたいって思う人はいるんじゃないかと。現場に遊びに行って、お酒たくさん買えばクラブにとってはサポートにはなりますが、飲めるお酒の量には限界があるので。
Kotsu ぼくは正直、いまはどうやってお金を生むかという「攻め」には出れないかなって。どうやって食っていくかという「守り」をまずは固めたい。新型コロナウイルスの影響は本当に大きくて、3月は死にそうだったんですよ。だからZineをつくったんです。そうしたら1ヶ月どうにかなった。かなりギリギリでしたが…。こんな状況にも関わらず仕事を振ってくれるクラブもあったので、本当に感謝しています。だからこそ、クラブを助けたいって思いは強いんですが…。
Romy Mats コロナ禍で、DJとクラブの信頼関係は再確認はできだと思います。だからこそ、持続性の高い方法で適切にクラブ運営がされるように、もっと外部の意見も入れても良いんじゃないかな、とは思いますよね。
Kotsu これまでクラブのビジネスモデルや経営状況がDJに共有されることってなかった。でも、コロナ禍ではクラウドファンディングのやり方やリターンを相談してくれるクラブも多くて嬉しかったです。ブッキングする・されるの関係だけじゃなく、一緒につくっていくのが、プロとして気持ち良い関係ですね。
VICK アメリカのクラブはまだ全然再開できてないんですよ。でも、日本は少しづつ再開できてる。DJもクラブも困っているから、お互いが助け合って、再開できる日本はすばらしいと思います。
── クラブカルチャーの再建という点では、どのように考えてますか?
Romy Mats ぼくはもう何年か前から「東京のシーン」「日本のシーン」というような大きな括りでは考えなくなりました。まずは純粋に、自分が面白いことを一緒にやりたい人と、どんどんやっていく。そうした動きを海外に発信したり、海外でギグやツアーのチャンスを掴む。これからは「個」のパワーがますます大事になると思います。自分で営業したり、プロモーションする。会いたい人に自分で会いに行ったり、メッセージを送ってみる。そういった地道な活動は誰かが見てくれているし、個の動きが結果的に、日本や東京のシーンに還元されるんじゃないかと思っています。
VICK こんなことは、いままで誰も経験したことがないので、正解は誰にもわからないですよね。それなら、自分ができることや、めんどくさがってやってこなかったことをやることが大切だと思います。ぼくらはもうすぐ作品を出すんです。いまはパーティー以外のことを頑張って、コロナが落ち着いたときに、みんな準備ができてるように頑張る。その日が楽しみです。
Kotsu ナイトカルチャーが好きな人は、コロナ禍があろうとなかろうとずっと好きだし、一人ひとりが好きだって気持ちをより強く持つ、自覚的に持つことができれば大丈夫だと思うんです。アイデアってあくまでも手段でしかない。いまはこんな状況だからこそ、いろいろ活動している人、パーティーに来てくれる人、周りにいる仲間を大切にしたいですね。信頼関係を築けない人は消えていくんだろうし、信頼を積み重ねられる人は残る小手先そこにこそ、希望があるんじゃないかって。
[yossiによる取材後記]
今回の鼎談に参加してもらった3人に共通しているのは、小回りのきく個人やチームでスピーディーかつインディペンデントに活動していることでした。大人数が好きになってくれる統制された投網を設計するのではなく、自分の周りの人を巻き込みながら雪ダルマを転がして大きくしていくようにファンを増やしていく。これからの都市に求められているのは、何にでも対応できる箱としての側面というよりも、何でも自由に始めることができる小さなプラットフォームの集積としての側面だと感じます。すでにインターネット上では、BaseやCampfireなどのプラットフォーム上で人々が自由に活動をし、ファンを増やしていっています。
NEWSKOOLは、ナイトデザインを通じて、「多様性に対応できる、一人ずつにあったプラットフォームをつくる。」というVisionを実現しようとしています。その考え方を都市というハードの世界に持ち込めるかがこれからの都市競争力を左右するに違いありません。