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無料で資料ダウンロード既成概念を軽々と更新し続け、圧倒的な存在感で同世代から強く支持されるTohji。ジャンルやこれまでの慣習に縛られず、誰よりも自由に活動しているように見える彼を、マネジメントとしてフルサポートするのがCANTEENです。他にも4組のアーティストマネジメントを行いつつ、クリエイティブエージェンシーとしても事業を展開しています。モバイル決済サービス「Coiney」や、ECサービス「STORES.jp」を手掛けるhey社と共同でリサーチプロジェクト「UNTOUCHED──お金(の未来)を手さぐる」を実施し、昨年末には関連した展示も開催するなど、ジャンルにこだわらずに活動の場を広げています。
代表の遠山啓一(てぃーやま)さんは、慶應義塾大学経済学部卒業後、ロンドン大学の東洋アフリカ研究学院(SOAS)に進学。メディア・スタディーズ修士号を取得後に帰国し、日本で外資系広告代理店に勤務した経歴をもちます。並行して思想/建築/デザインを架橋しながら批評活動を展開するメディア・プロジェクト「Rhetorica」にも関わるほか、国際交流基金アジアセンターのフィールドワークや慶應義塾大学アート・センターとの共同プロジェクト、Maltine Records海外公演の支援などさまざまな活動をしてきました。
遠山さんが一貫して課題意識をもち続けているのが、日本のクリエイティブシーンにおける「活動形態の多様性」が乏しいことでした。CANTEEN立ち上げ前から遠山さんと活動をともにする、Maltine Records主宰のtomadさんにも同席いただき話を聞きました。
──CANTEENの設立に際して、遠山さんの「憤り」が重要だったとtomadさんは以前おっしゃっていましたよね。
遠山:外資の広告代理店に入社して、日本のクリエイティブ業界の構造やそこから生まれる意識に疑問を持つようになりました。一番上にクライアントがいて、広告代理店、プロダクション、クリエイターという上下の構造、そこから生まれる意識が固定化されているなと。もちろんその構造だからこそ捌ける仕事もありますし、それが一概に悪いわけではないのですが、自分の体感ではその構造や実際に仕事を行うときの意識にもっと多様性があったほうが面白いクリエイティブが生まれるだろうなという感覚がありました。
──それは音楽でも同じですか?
遠山:似たような状況があると思います。いわゆるレーベルと契約をしているアーティストと日曜音楽家のような方々。レーベルや事務所という組織の下部に位置する役割としてのアーティスト、もしくは誰にもサポートされずに小さく趣味レベルで活動する二択のような状況が主流で、それ以外のインディペンデントに活動するアーティストやレーベルは事例として取り上げられたり注目はされているのもの、ヨーロッパやアメリカに比べるとまだまだ数が少なく多様性にも欠けていると思います。
──北米や欧州では、それ以外の形態でも食べていける構造があるんですか?
遠山:デジタルディストリビューションが主流になってから、自分たちでマネージメントチームを組み、しっかり稼いでいるアーティストが多く存在しています。メジャー契約する場合も、日本のような0か100かというよりは、マネージメントチームを引き連れて契約したり、ある一定の機能だけを委託したりしているパターンが多く、活動形態にもずっと多様性があると思います。
Chance The Rapperの過度なインディペンデント志向は批判もありますが、あのくらいのレベルでも経済的自律性を保っているチームが多く存在している。日本もTuneCore Japanの上陸以降、アーティストが直接ディストリビューションをするケースは増えていますが、自律したチームで大きな成功を収めているアーティストの数でいうと、まだまだ少ないですし影響力も小さいと思います。
アーティスト自身が人を雇ったり組織を立ち上げたりしている段階の、いわば「ミドル層」のアーティストが増え、彼らの多様性が出てくることで、構造的にも大きな変化が生まれると思います。クリエイティブ業界の構造を変えるために、自分ができることで一番クリティカルな目標はそれだと思うので、いまはそれに向けて色々試行錯誤しているような状況です。
──いわゆるミドル層が育っていくことは、音楽シーンにどのような影響を与えるのでしょうか。
1人で活動を続けていくには活動の規模が大きくなりすぎてしまい、自分1人で活動をハンドルするのが難しい状況の(具体的には月の売上が50万を超える)アーティストを「ミドル層」だと仮定すると、本来なら彼ら、彼女らの活動形態やチーム編成はかなりフレキシブルなはずです。
例えば、全てを一緒にやるマネージャー兼ビジネスプロデューサーのような人を雇っても良いだろうし、ディストリビューションはどこかの会社に委託しつつPRを業務委託で発注することもできる。それぞれのアーティストが自分たちに合った活動形態やチーム構成をとれるようになれば、自然にそれがシーンの多様化にもつながります。このミドル層の選択肢の広さが、そのままシーンの可能性だとも言えるのです。
自律的なチームを組織することで、これまでの日本の音楽業界の慣習だとアーティストがほとんど蚊帳の外に置かれていた原盤収益についても、その大部分を自分たちの判断で扱える状況がつくり出せます。それによって、活動のために主体的に動かせる資金が増え、活動の仕方もより自由になります。YouTuberとして活動してもいいし、ライブを一切やらないという選択をしても良い。日本の市場は無視して最初から海外や特定の国をターゲティングしても良い。自分たちのやりたいことを普通にやっていくことができるようになります。
ライブについても、オファーを数多く捌くより、納得のいくものだけを受けたり、自主企画に力を入れたりするほうが、1回1回のクオリティは上がります。ライブの期待度も上がるので、集客にも繋がります。結果的に毎回のライブがより大きな舞台に繋がりやすいものになったり、少ない活動歴でもギャラを上げていくことが可能になったりします。
自分たちで自律的な経済圏持って活動をしているミドル層のアーティストやクリエイターが増えれば、彼ら彼女らの個性や意思が尊重される状況が増え、結果としてクリエイティブの多様性も高まり、シーン全体がおもしろくなるという考えです。
──CANTEENがミドル層を増やしていくための戦略はどのようなものでしょうか?
遠山:構造に変化をもたらすことを目標にする場合、質の高いマネジメントサービスを数人のアーティストに提供したり、自分が関わっているアーティストの活動の質を高めたりするだけでは、影響力が足りないと感じ始めています。なので最近はより大きな目的に向かった活動ができるように、これまでやってきたノウハウを元にプロジェクトや事業を立ち上げようとしています。
──具体的にはどんなことに挑戦していくんですか?
僕らはいわゆる音楽業界での経験がない状態からインディペンデントなチームをつくり、法人を立ち上げ、資金調達をするところまで全て自分たちでやってきました。この経験を伝えたり、多くの人に展開したりするプロジェクトを立ち上げようとしています。
いまの日本においてはミドル層が必要な知識や取るべき戦略を教えてくれる人や場所が不足していると思っています。アメリカやヨーロッパであればバックオフィスのサービスやブッキング、PRに特化したエージェンシーの存在があり、アーティストに投資してくれるファンドのような役割や助成金も機能しています。しかしそれらを日本で探そうとすると難しい現状がある。そこでそれら全てを自分たちでサービスとして展開しようということになり、「Refectory」という名前で新規事業を立ち上げました。
これまでCANTEENでは、レベニューシェアでのフルタイムのマネージメントサービスしか提供していませんでしたが、より多くのアーティストをサポートし協業していくために、簡単に言えばCANTEENのサービスをアーティストのニーズに合わせてバラ売りしていきます。現状考えているサービス内容だと、アーティストの手元に残る売上のパーセンテージは提供されるサービス内容を考えれば業界では圧倒的に多いですし、原盤権と著作権の譲渡の必要なく、必要に応じて制作費を投資するファンドのような役割も果たします。現状ではこうしたサービスの必要性を理解しているアーティストが少ないため、まだまだニーズの掘り起こしや認知獲得の必要がありますが、必ず需要があり競争力のあるサービスだと思っています。
──なるほど。CANTEENで培ったマネージメントノウハウを横展開することでミドル層を能動的に増やしていくと。
遠山:はい。それに加えて教育/啓蒙的な活動もやっていきたいと考えています。いま決まっているところだと、渋谷パルコにある10代向けの学びの場「GAKU」にて、中高生向けのアーティスト養成講座を9月から開講します。このプログラムでは、ラップの仕方やビートの作り方だけではなく、権利関係やディストリビューション、プロモーションを中高生と一緒に考え、最終的に楽曲をストリーミングサービスで配信するところまでを生徒たちと一緒に行います。アーティストに必要な知識を座学で教えるのではなく、実践を通じて体験してもらう講座です。
また、書籍も出したいと思っています。アーティストとして活動していく上で抑えておくべきマネージメント業務の見取り図を提示するほか、「メジャーか趣味か」という古い二択以外の選択肢を示す内容になる予定です。
──渋谷パルコで開催される「GAKU」、面白いですよね。ぼくが代表を務めるNEWSKOOLでは渋谷区のナイトカルチャーに関して、さまざまな点からお手伝いしているんです。遠山さん、tomadさんがいまの渋谷をどのように捉えているかについても聞きたいです。
遠山:駅周辺の商業施設が充実することで、街として大きく変わってきていると思います。商業施設は良くも悪くも経済的に最適化されたものだと思うので、そこで街の個性を作ろうとしても幅が限られているかなと思います。逆に無理に「渋谷」や「東京」感を作り出そうとする施設やテナントには強い違和感を感じます。
tomad:最近の渋谷は、駅周辺の大型ビルにお馴染みのテナントが多くてちょっと郊外の駅前っぽいですよね。いや、逆に郊外が渋谷化しているのかもしれませんが。どれだけ新しいビルを建てようとも、デベロッパーが共通なのでパートナーやテナントのカラーがだいたい一緒になってしまう。「カルチャーっぽさ」を取り入れたい意向はあるけれど、それは渋谷だからその従来のイメージに引っ張られて「カルチャーっぽくしておいたほうがいいよね」という建前のようなものだと感じます。そのカルチャーっぽさを担うアーティストやデザイナーもだいたいが声をかけやすい似たような人だったりしますし。いま新しくインディペンデントで面白いことをやるなら、家賃も高いですし渋谷駅周辺ではやらないですよね。例えば駒場東大前とか、渋谷から3駅くらい外したところが現実的です。
遠山:都市の余地とアーティストやクリエイターの活動多様性には密接な関係があります。今日主に話してきたミドル層や、インディペンデントに活動するアーティストやクリエイターにとって、都市の余地や隙間をどう見つけるかはクリティカルな問題だと思います。具体的なレベルで言えば、クラブやライブハウス以外の音が出せる空間の有無や、ダラダラと人が溜まりながら制作ができるような場所をどのように作り出すかは、日頃から頭を悩ませている部分です。
──なるほど。一概にアーティストマネージメントと言っても、都市や公的な空間の議論が密接に関わってくるのはとても興味深いです。
遠山:そうですね。CANTEEN(=食堂)やRefectory(=共同の大食堂)といった事業名のとおり、活動するからにはある程度公共的な役割を意識しています。一般的に「クルー」や「コレクティブ」は、自分たちを強くするためのチームだったり、クリエイティブのコントロールを守る戦略であったりすることが多いと思います。その方法の意義は理解しつつも、個人的にはもう少し大きな目的に向かって活動していきたい。そこは他のチームとは意識が分かれる部分かもしれません。
以前tomadと一緒に参加していた国際交流基金アジアセンターのプロジェクトで、毎年東南アジアのアーティストやコレクティブのリサーチやその街のフィールドワークをしに行っていたのですが、そこで強いインスピレーションを受けました。どの国に行ってもただ集まって制作するのではなく、どんなに小さな組織でも必ずと言っていいほどその窓口を外へ開き、コミュニティ機能だったり公的な役割を持とうとする意思がありました。ワークショップや講座を開き、教育を提供するプログラムを開催している。次の世代や同世代と繋がる機会を自分たちで持ち、国や街というコミュニティ単位を意識した活動を続けている彼らの姿がとても印象に残っています。
tomad:社名でもあるCANTEENは「食堂」を意味する英単語です。たとえるなら、草原の真ん中にポツンと佇む食堂のようなイメージです。草原には無数のテントがあり、組織化されていないクリエイターが点々と活動している。そんな草原に向かって、何かいい感じのことをやりたい「広告代理店村」や「クライアント島」の人がいきなり「1億円あるんですけど、だれかいい感じのことやりませんか?」と叫んだとしても、彼らは見当違いな草原の地図しか持っていないので、なかなか良いものはつくれないんです。だからこそ、広告代理店村やクライアント島の人も、草原に住むクリエイターも、まずは一度この食堂に集まって、飯でも食いながら情報整理とお互いの目線合わせをしようと。
遠山:CANTEENには、大学のキャンパスにある食堂のイメージも重ねています。大学の食堂は、行けば誰かが必ずいます。ご飯を食べに来ても良い、友人と喋りに来ても良い、勉強をしに来てもぼーっとしに来ても良い。いろんな目的を持った人がとりあえず立ち寄れる、困ったときには誰かがいて助けてくれる。そんな開かれた場所でありたいという思いを込めています。
「夜」という言葉が、夜の価値を狭めてしまう
──最後に、このラボの目的であるナイトカルチャー、ナイトエコノミーについての考えを教えてください。アムステルダムのナイト・メイヤーを務めたミリク・ミラン氏は、「夜」の価値を3つに定義しています。 “ナイトタイムエコノミー”と言われる夜間の経済活動。 “ナイトカルチャー”という新しい実験的な文化が生まれる機会。 “ナイトソーシャライジング”と言われる、昼の肩書を忘れて交流を深める夜独特のコミュニティ。これについてどう考えますか?
遠山:tomadもTohjiも、いま自分の周りにいる人たちとの出会いをくれたのは音楽とそれが鳴る空間でした。広義のパーティー、音楽を聴く人たちが集まる場所でいろんな人と知り合えたから食堂としてのCANTEENがある。そういう意味で「夜」がつなげてくれた出会いには感謝しています。でもここで言われている「パーティー」って、日本ではあまり一般的ではないですよね。日本における夜の出会いの場はたぶん「飲み会」なんじゃないかな。飲み会で意気投合して仕事をするという話はよく聞きますよね。欧米では日本の飲み会的な役割も、パーティーにある程度内包されているということだと思うんですが。だからこそ、クラブカルチャーがシームレスに昼間の経済にもつながっているんだと思うんです。
tomad:偶発的な出会いが起きやすいのが「夜」だけど、それは「夜」を分解して再構築したら昼でもできることなんじゃないか。当たり前に昼のほうが日本のカルチャーには馴染みやすいのもあり、マルチネでは無理せずにデイタイムのクラブイベントも積極的に開催しています。
遠山:日本では「クラブに行く」「ライブに行く」って特別なことだと思うんですよ。ナイトアウトみたいな概念がないから、人々の生活のなかに浸透していない。なので、「夜」という言葉が「夜の価値」を狭めてしまうのではないかと。「夜」でなくても夜は機能するというtomadの考え方にはすごく同意で、あまり「ナイト」とか「夜」って言葉を前に出さずに、敷居を下げたカルチャーとしての成長を目指すほうが、その真価を発揮しやすい気がします。
[取材を終えて]
わたしたちの暮らしは、なぜ二元論で語られるのでしょうか。アーティストをやるにはレーベルに入るか、趣味でやるかの選択肢しか存在しないのでしょうか、都市の中には公共空間と民間地の枠組みしか存在してはならないのでしょうか。
CANTEENが行っていることは、知らずのうちに意識に刷り込まれているboundaryの上に特別区をつくる試みなのでしょう。必要なことは、当事者たちが対等に視線合わせをできる場をつくっていくこと、そして双方のメリットとデメリットをもとに当事者にとって最適な方法を模索することかもしれません。
CANTEENはアーティストマネジメントという手段を選び、わたしたちNEWSKOOLはナイトデザインという手段を選んでいます、しかし目指している世界はきっと同じであるのだろうと強く感じたインタビューでした。(TEXT BY YOSHIHITO KAMADA)