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2023

これからの旅は人生の変革を促す「トランフォーマティブ・トラベル」に変化する──調査レポート「CFP」を読み解く Vol.1

パンデミックからの持続的な復興を目指して

2020年12月現在、COVID-19は依然として世界中で猛威をふるっています。そんななか“夜の街”は依然として感染リスクの高いエリアとして捉えられており、ナイトタイムエコノミーには多大な影響が出ています。

この現状を打破し、夜の街に新たな価値を生み出していくための鍵として、わたしたちが注目しているのが「Creative Footprint TOKYO」(以下、CFP)という調査レポートです。このレポートはNight Design Labでインタビューを行った弁護士で齋藤貴弘さん、ナイトカルチャーを含め新しい文化観光政策を牽引している梅澤高明さん、プロジェクトマネージャーの伊藤佳菜さんを含む、ナイトタイムエコノミー推進協議会のメンバーで作成された、夜間帯の文化価値の評価に関わる調査であり、これからのナイトカルチャーの方向性が示されています。

東京におけるCFPの作成には、元アムステルダム・ナイトメイヤー(夜の市長)兼、CFPの母体であるコンサルティング会社VibeLabの創立者であるミリク・ミランさんとルッツ・ライシェリングさんが全面的に協力しています。VibeLabはナイトタイムに関するグローバルネットワークを構築し、最先端の情報を集め、ナレッジとして世界中に展開しており、CFPもその取り組みの一環です。Night Design Labでは、今回から4回にわたってCFPの読み解きを行ないます。

CFPではその調査において、文化・観光・都市の結びつきを強める必要性があると主張しています。これはナイトタイムエコノミーに関わる人だけでなく、文化・観光・都市に関心のある全ての人に対して、未来を考える上でのヒントとなることでしょう。

Creative Footprint TOKYOとは?

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CFPは、観光庁によるナイトタイムエコノミーの推進施策のうちの1つ「夜間帯の文化価値の評価に関わる調査」についてまとめたレポートです。調査は、一般社団法人ナイトタイムエコノミー推進委員会が中心となり、一般財団法人森記念財団の協力のもと2019年から2020年に実施されました。

CFPは、ナイトタイムエコノミーを含む体験型観光を観光業だけに完結するのでなく文化復興やまちづくりと有機的に連結させることを主張しており、単なる調査にとどまらず課題解決に向けた提言と、提言を実行していくためのステークホルダーの関係構築を行うことを目的としています。具体的には、① 観光文化都市に関わるステークホルダーへのインタビュー、② ミュージックベニューの調査、③ワークショップの実施の3つを行い、上記の目標の達成を試みています。

観光・都市・文化の結びつきの重要性

かねてよりナイトタイムエコノミー推進の中心議論として「インバウンド観光客の滞在期間や消費額を増やすべき」という経済面での意見がありました。コロナ禍以前、訪日客数は急増し、インバウンド観光は成長戦略や地方創生の切り札として大きな注目を集めていました。その一方で、訪日客旅行消費額は政府目標(2020年に8兆円、2030年に15兆円)にはほど遠く、一人あたりの消費額の拡大が急務でした。ニューノーマルな時代において、ソーシャルディスタンスを保った観光が重要視されるであろうことを考えても、一人当たりの滞在期間や消費額の拡大は必須となるでしょう。

このようなナイトタイムエコノミーの推進議論のなかで、モノ消費からコト消費に旅行のトレンドが変化している現状を踏まえ、「体験型観光」に注目が集まっています。体験型観光の主力は、自然と食の体験です。「訪日外国人旅行者の意向調査(2018年版)」では「訪日旅行で体験したいこと」として、桜や自然の鑑賞、食を楽しむといった項目に次いで、日本庭園や史跡・歴史的建造物に鑑賞、繁華街の街歩きなどの文化的体験が上位にランクインしています。

このトレンドの変化は一体なぜ起こったのでしょうか。CFPのレポートにて、伏谷博之氏(タイムアウト東京代表)は次のように語っています。

ライフスタイルと観光が一体化しつつあるのが今のトレンドだ。旅行を通じて異国のライフスタイルや考えに触れて、新しい気づきや悟りを得る。「東京はどういう価値観を持ち、どこを目指しているのか」を示すことが大事になってくる。日本文化は多種多様だ。クオリティは高いが多様性があるゆえに海外への紹介が難しい。多様性の時代は選択の時代だ。選択してもらうために、日本としてどのように情報を発信してするか。観光の目的が多様化しているのだから、多様な価値のタグを付けることが大事だ。

人々は旅行を「ライフスタイルに新たな指針を与えてくれるモノ」「日常では得られない特別な体験を通じて人生の変革を促すモノ」として捉えているのです。このように位置づけられた旅行を「トランスフォーマティブトラベル」といいます。

トランスフォーマティブトラベルにおいて重要性を増しているのが、ローカル(地域性)とオーセンティシティ(本物感)です。豊かな刺激や気づきを与えてくれるのは、分かりやすくパッケージ化された旅行商品より、地域のリアルな生活者の息吹を感じさせるオーセンティックな観光体験なのです。旅行者の眼差しは、既存の旅行商品ラインナップだけでなく数多くの選択肢に向けられます。選択肢がグローバルに広がるほど、その地域固有の魅力が都市体験を差別化する要素として際立つのです。

以上の背景を理解することは、ナイトタイムエコノミー推進における文化価値の評価及び、観光・都市・文化の結びつきの重要性を捉えることにつながります。「夜間」はさまざまな経済活動の場であるとともに、新しい文化が生まれ、育つための土壌です。「夜間」が持つ文化価値の可視化がナイトタイムエコノミー政策にとって極めて重要になるのです。そして、ナイトタイムエコノミーを含む体験型観光施策は、観光消費増加を目指す経済施設であると同時に、文化推進施策であり、まちづくり施策と捉えることできるのです。

先程、体験型観光・トランスフォーマーティブトラベル・ローカル・オーセティシティというキーワードが登場しました。ここからはこれらのキーワードについて、ニセコ”Bar Gyu +”の事例を見ながら深堀りしていければと思います。

ニセコ”Bar Gyu +”にみる「ローカル」と「オーセンティシティ」

「Bar Gyu +(ギュー タス)」は北海道ニセコで冬季のみオープンするリスニングバーです。Bar Gyu +のエントランスは、雪に埋もれた瓶コーラの冷蔵庫にしか見えません。このユニークなエントランスは、今や数々のメディアに取り上げられ、夜のニセコになくてはならない風景となっています。

小さなドアを開くと、中には隠れ家的コンセプトのバーが広がっています。可愛らしいバーカウンターに並べられた選りすぐりの日本製のウィスキー、素晴らしいアナログレコードのコレクション、温かみのあるHi-Fiオーディオの音響、ローカルのDJによるセンスあふれる楽曲。それらがこの店を訪れる人々を出迎えてくれます。

このBar Gyu + は、1999年にオーナーである渡辺仙司氏が、現在ほどは活気のなかったニセコに土地を購入して自宅兼バーを建てたのが始まりだそうです。空間設計に対して観光客を呼び込もうという狙いは皆無でした。店舗を建てる際、路地裏に広がる美しい白樺を見つけ、この白樺の雪景色を見ながら、パウダースノーを愛する仲間と一緒に大好きな音楽を楽しめる場をつくりたいという渡辺氏の個人的な思いがオーセンティックな空間につながったそうです。

オープン当初は仲間内でこじんまりと営まれていたBar Gyu +ですが、2006年頃から欧米豪の観光客によって発見されていきました。現在では来店客の9割ほどが外国人観光客だそうです。Bar Gyu +にみられるニセコ的ライフスタイルや、そこに集うローカルコミュニティ、ユニークなクリエティビティが世界中のスキーヤーやスノーボーダーを魅了していったのです。

その土地に根付く「ローカル」と「オーセンティシティ」を体現するユニークなニセコ”Bar Gyu +が外国人観光客をはじめ様々な人々を惹きつけたのは必然だったのかもしれません。

文化は、豊かな観光体験の源泉となり、観光客を魅了して地域に呼び込む力をもっています。経済的な熟成とともに効率化・標準化していくことで文化的多様性が低下していく都市部、過疎化により文化創造の担い手が減少していく地方部、それぞれの地域課題を克服し、文化を発展させていくことが体験型観光推進及び多様性のあるまちづくりの鍵となっていくことでしょう。

次回の記事では観光と文化に注目し、2つの要素がどのように関わりあっているのかを紐解いていくことで、観光産業と文化復興の良好なエコシステムについて考えていければと思います。

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