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無料で資料ダウンロード2015年の風営法改正。齋藤貴弘弁護士が先導したこの取り組みにより、今までグレーとなっていた深夜帯のナイトベニュー営業は正式に認められることとなりました。1948年に制定されたこの法律は、戦後に売春の温床となったダンス営業の規制を目的としていましたが、時代の変化に伴い形骸化。しかしながら、ナイトタイムと行政の対話のテーブルがなかったことから、事業者たちを長年苦しめるものとなっていました。
テクノロジーが加速度的に進化し、コロナ禍で社会の常識が大きく変わろうとしているいま、古くからある制度や法律と時代の不一致は、社会のいたるところで見受けられます。
そうした社会背景のなかで、既存のルールや法制度に働きかける手法として注目されているのが、「パブリックアフェアーズ」というアプローチです。「企業等が事業目的の達成のために行う、公共・非営利分野への戦略的関与活動」を意味するこの手法が、これからのナイトタイムを考えるうえでヒントを与えてくれるかもしれません。
こうした手法を用いた業界内での連帯や行政を含む多様なステークホルダーとの連携を考えるべく、パブリックアフェアーズの日本における第一人者であるコンサルティングファームであるマカイラ株式会社の方にインタビューをしました。
同社の上野聡太さん、草野百合子さん、宮内才人さんにお話をうかがうことで、ナイトタイムにおける業界としての合意形成のつくり方や、進化するテクノロジーとの向き合い方について考えていきます。
──以前、「Night Design Lab」では齋藤貴弘弁護士にインタビューしたのですが、その際には社会変革の方法論としての「パブリックアフェアーズ」の重要性を語っていただきました。今回は、そんなパブリックアフェアーズを社会の第一線で実装しているマカイラさんとお話できるということで、とても楽しみです。まず、パブリックアフェアーズとは何か改めて教えてください。
上野:ありがとうございます。パブリックアフェアーズについて説明する前に、まず自分たちは何者なのかというところからお話できればと思います。マカイラ株式会社は自らのことを「社会変革の実装パートナー」と名乗っています。パブリックアフェアーズという手法を用いてどのように社会をポジティブにアップデートできるかを考え、支援する企業です。
では、パブリックアフェアーズとは何かという話ですが、教科書的な定義から紹介すると「ある主体が目的を実現するためルールの形成または社会からの好感・支持の獲得を目指し、公共非営利セクターや社会世論に対して行う働きかけ」となります。経営戦略的な観点から説明すると、パブリックアフェアーズは、いわゆる3C戦略(市場・競合・自社)の枠を超えて、「政治・経済・社会・技術」に働きかけようという考え方に基づいています。
──従来の経営戦略を考えると、いま挙げていただいた政治・経済・社会・技術は、前提条件というか、自分たちの力では変えられないものとして距離が置かれているところですよね。
上野:そうですね。なので、「政治・経済・社会・技術のような大きな概念も適切に働きかけていくことで意外と変えられるんだよ。みんなでよい社会をつくっていこうよ」というメッセージがパブリックアフェアーズの肝になっています。
──実際にどのようにアプローチしていくのか、とても気になります。
上野:わたしたちはパブリックアフェアーズを適切な組織・個人を巻き込んでさまざまな出来事の演出・情報の発信を通じてゴールを目指す、つまり「対話とコミュニケーションのストーリー」だと考えているんですね。
まず1年後や2年後に実現したい未来を想像して、その未来を実現するために欠かせない登場人物やストーリーを考えていく。この瞬間にはこういう会話があって、このタイミングではこんな印象的な出来事があって、こんな仲間が増えて、、といった、さながら映画の脚本、ストーリーを書いているような感覚ですね。
さらに、このストーリーを書くために必要な視点として「ルール」、「ディール」、「アピール」という3つの軸があります。ルールは法令やガイドライン。ディールは自治体・省庁などとの個別の合意や連携、お墨付きを獲得すること。アピールは追い風となる社会の共感を得るための活動です。渋谷区等の電動キックボードシェアリングの事例などは、この3点を上手く取り入れています。
──電動キックボードの事例では、「ルール」、「ディール」、「アピール」がどのように実践されているのでしょうか?
最近話題の電動キックボードですが、法律上は原付きの区分なので、本来はヘルメットを被らないと運転できないんです。でも電動キックボードに乗るためにヘルメットを持ち運ぶのは面倒だし、シェアリングという仕組みとの相性も悪い。
なので、道路交通法の改正に向けて取り組みたいのですが、いきなり「法律(ルール)を変えてください」と伝えるわけにはいきません。私有地での展示・試乗会、公園や大学等の敷地内での実証実験、ヘルメットありでの公道実証実験と徐々に実績を積みつつ、現在は「渋谷区など区域を区切ってヘルメットなしの実証実験をする」というディールをつくっています。
これによって、ヘルメットなしで人々が電動キックボードに乗っている様子がメディアに取り上げられたりと、社会に向けたアピールを行っていくことで、人々の中に「電動キックボードは社会がより便利になるために必要だよね」という共通認識が生まれていく。
このようなアピールの積み重ねによって、道路交通法を変えていきましょうというルールメイキングが始まっていく。こんなストーリーを考えて実装していくのがパブリックアフェアーズです。
──ありがとうございます。マカイラが設立されてから約7年が経つと思うのですが、5年間の活動の中でパブリックアフェアーズを取り巻く環境の変化はどのようなものでしたか?
上野:一番はスタートアップの台頭だと思います。シェアリングエコノミーを筆頭に、ここ5年や10年で新たなビジネスモデルが次々に生まれてきました。ただ、こうしたビジネスモデルは旧来の法律と噛み合わないことが多いんです。なので、時代と法律の擦り合わせの必要性が高まっていったというところだと思います。
──「よりよい社会」の実現を目指しているスタートアップが規制に働きかけていく動きがあるなかで、ときとして「テック企業の論理」や「テクノロジーありき」で改革が進んでしまう危険性も存在すると思います。そうした企業の事業の公共性をどのように判断していくべきでしょうか。社会を変革させたいというビジョンの妥当性をどのように見極めているのでしょうか。
草野:一番難しく、本質的なところですね……。まず会社としての公式見解から述べさせていただくと、会社として案件を受託するときの基準として、3つの原則を挙げています。
1つは「Innovation Focus(イノベーション特化)」です。既得権益を固守し、社会の前進を阻止するような仕事はしません。2つめは「Social Good(社会への便益)」です。社会への正負のインパクトを比較較量したときに、社会的な便益の方が大きいと全社員が合意する案件以外は受けません。3つめは、「No Rent Seeking(利権を作るな)」です。特定の産業や企業のみに独占的な利益を囲い込むためにマーケットを不当に歪めて、経済全体のパイを犠牲にするような行為への肩入れはしません。
──ありがとうございます。皆さまの私見もぜひ伺ってみたいです。
草野:会社としての大きなルールは定めていますが、結局は案件ごとに個人の判断に委ねられることが多いです。
上野:例えば、最近話題にあがっている「空飛ぶ車」を例に挙げてみます。このモビリティが社会に浸透すれば私たちの移動は格段に便利になるはずです。ただし、普及に伴い事故が起きる、場合によっては人が亡くなるというケースも生まれるかもしれません。個人的には、ルール、運用、マナーなど様々な観点から最大限配慮した上で、テクノロジーを社会実装させる方向に進んでほしいなと思いますが、このあたりは千差万別です。
宮内:他には、IRの事例なども判断が難しいところですね。カジノやギャンブルが社会に浸透することによって、経済の活性化・富の再分配が期待できると思うのですが、それと引き換えにギャンブル依存症の増加などの可能性が考えられます。私見としては、積極的にルール形成をしていき、例えば利用者層に収入制限を設けるなど負の部分を最小限に押さえられればと考えているのですが、これも一長一短ですね。
草野:というように、私的な見解は案件ごとにかなり異なっていくので、社内で充分な話し合いをしつつ、判断していくというかたちです。
──ナイトタイムエコノミーを推進するためのパブリックアフェアーズの可能性についても伺いたいです。現在、コロナ禍でのイベント開催の是非が社会的に問われています。イベントを中止すれば経済的な損失は多大なものになるし、開催すれば感染のリスクは避けられない。この点について、パブリックアフェアーズの観点からすると、どのように対処していくべきでしょうか?
上野:業界としての連帯が求められると思います。スポーツ業界、特にプロ野球などはパブリックアフェアーズに近しいアプローチがとても上手いと思うんです。コロナ禍で試合が中止になっていくなかでも、市民や政府に対して、自分たちの対策とリカバリープランを発信し続けていたため、いざ観客を入れて試合をしますというときにも信頼が得られやすかった。ナイトタイムにおいても、業界として信頼を得るための連帯をつくることが重要だと考えます。
──そのような連帯を推進する際に、業界に直接関わる事業者や利害関係者がリーダーとなっていくことは、やはり難しいのでしょうか? 風営法改正の際には、斎藤弁護士という業界外のプレイヤーが先導することよって実現していましたが。
草野:先程の事業の公共性の話にもつながるのですが、「社会に対するポジティブなメッセージと自社の利益をいかに重ねることができるか」が重要だとおもいます。そこを上手く重ねわせることができれば、事業者単位でもリーダーとなることができると思いますね。
上野:その点で言えば、マイクロモビリティ推進協議会を先導している株式会社Luupがいますね。Luupは、マイクロモビリティによって日本の交通事情をよりよくしたい、生活の利便性を高めたいというメッセージを上手くアピールしていくことで、業界の事業者でありながら、業界の連帯を推し進めることに成功しました。
草野:ナイトタイムエコノミーでいえば、イベントをやるにしても、いかに最大多数が仲間となれるイデオロギーを立てるかを意識するべきかなと思います。パブリックアフェアーズにおいて「仲間づくり」はとても大事な考え方なんです。フェスをやりたいときに、「コロナ禍でも騒げる場所があってもいいじゃないか」というメッセージ性だと人々から理解を得られない。これを「音楽の未来を守るための段階的な規制緩和」というメッセージ性に変えていくと賛同者が増えていく。そんな最大多数が賛同できるようなイデオロギーを立てる流れが業界として浸透していけば連帯に近づくと思うし、事業者単位でも連帯を推し進めることができると思います。
──とはいえ、ナイトタイムに関わる多様なステークホルダーのなかには大企業だけではなく個人でライブハウスやクラブを運営している方など、インディペンデントに活動されている方も多いと思います。そうした多様な人々が連帯するためには、どのようなアプローチが考えられますか?
上野:ナイトタイムに関わる業界では自分のフィールドであったり、仲間を何より大切にする人たちであったりが多いと思うんですよね。そういう小さな事業者単位でも、行政や市民とコミュニケーションがとれる仕組みづくりをしていけば、業界が自然と連帯に向かっていくようなストーリーは検討できるのではないでしょうか。
小さな事業者の草の根的な運動が、トップダウンのアプローチをするプレイヤーと結びつき、説得力ある活動が多数展開されている状態が理想なのかと感じました。そのための方法論としての存在するのがパブリックアフェアーズで、こうした手法が社会に浸透していけば、そのような未来は実現できると思います。わたしたちのようなプレイヤーが、パブリックアフェアーズを浸透させる。役割を担っていければと思っています。
上野聡太|SOTA UENO
大学在学中より、ソーシャルセクター領域にて、複数の非営利法人・事業立ち上げに従事。大学卒業後、一般社団法人RCF復興支援チーム(現在は、一般社団法人RCFと改称)に所属し、官公庁や大手企業の復興支援プロジェクトに従事。その後、NPO法人 Leaning for Allに事務局長として参画。組織基盤の安定化、大手財団との連携による新規事業の責任者などを担当。同時期に、社会性の高い事業の創出、成長支援に携わる。子どもの貧困、教育、福祉、環境、女性の活躍応援など様々なテーマ・領域で、国内大手財団や大手広告代理店とも連携し、様々なプロジェクトなどを手掛ける。2017年9月より株式会社ヒューマンアルバに参画、2019年4月株式会社ヒューマンアルバ 代表取締役に就任。また同時期より、マカイラ株式会社にも参画、パブリックアフェアーズのコンサルタントを務める。
草野百合子|YURIKO KUSANO
主にスタートアップ企業や教育・労働、文化・スポーツを通して日本の経済発展、社会変化を促す案件に従事。経済産業省で成長戦略、通商交渉、人材政策等に従事。教育ベンチャーにて中高生向け事業の企画・実施、組織基盤強化等を行った後、2020年にマカイラに参画。転勤族だったため日本国内各地で育ち、どの地でもお祭りの夜の特別感が好きだった思い出を持つ。東京大学卒業。
宮内才人|SAITO MIYAUCHI
関西電力の社内スタートアップでCSOとして営業の責任者を担当。観光による自治体創生案件や、産学官連携プログラムのハッカソン主催に携わる。また個人でシェアハウスを運営し、地元議員などとの協働で地域コミュニティの活性化を主導。これらの経験から、新しいサービスの普及や地域社会の健全な民主主義の実行のためにはPA領域が重要であると痛感し、マカイラに参画。ジェンダー、安全保障、防災への関心が高い。予備自衛官補として国防の現場にも加わる。匿名インフルエンサーとして政治解説のアカウントを運営し、メディア出演複数。シーシャやクラブなど夜の世界が好き。早稲田大学社会科学部卒。