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2023

ミュージックベニューが”東京”の総合的な文化力を測る鍵となる──調査レポート「CFP」を読み解く Vol.4

ミュージックベニューの調査から見えてきた東京が抱える課題

「Creative Footprint TOKYO」(以下、CFP)」とは、観光庁主導によるナイトタイムエコノミーの推進施策のうちのひとつである「夜間帯の文化価値の評価に関わる調査」をまとめたレポートです。ナイトタイムエコノミーを含む体験型観光を観光業だけに完結するのでなく文化復興やまちづくりと有機的に連結させることを主張しており、単なる調査にとどまらず課題解決に向けた提言と、提言を実行していくためのステークホルダーの関係構築を目的としています。

前回までの記事では、CFP中に書かれた観光・文化・都市に関わるステークホルダーへのインタビューを読み解き、「なぜ観光・文化・都市は有機的に連結するべきなのか?」について考えました。ローカルな魅力溢れる観光や都市こそが多様性を持った時代に求められるものであり、その実現には観光産業、まちづくり、文化復興の良好なエコシステムを作ることが必要です。

今回の記事では、CFPが行ったライブハウス、ナイトクラブ、ミュージックなどのミュージックベニューの調査を見ていくことにより、現在の東京が抱える課題を明らかにしていきます。

音楽通じて都市の総合的な文化力を測る

CFPの分析によれば、歴史的にみて音楽はマーケットに先立って時代の空気を敏感に感じ取り、新しい価値観を世の中に提示する役割を果たしてきました。アートやファッション、ダンス、映画、広告、ITといった様々な文化領域と結びつき、次世代の文化産業を生み出すエンジンとして機能してきたのです。事実、世界最大のテクノロジーと音楽の祭典である「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」やアート、デザイン、エレクトロニック技術などを含めた複合フェスティバル「ソナー」は、元々は音楽フェスティバルから始まったものです。

加えてCFPは「音楽は都市のアイデンティティとなり、そのイメージを形成していくものである」と主張しています。ロンドンのパンクロック、ニューヨークのヒップホップ、ニューオリンズのジャズ、ベルリンのテクノミュージック、シアトルのグランジミュージック、ソウルのK-POPなどがその例です。東京のミュージックシーンにおいても、アニメやゲームミュージックをカオティックな東京のイメージに重ねたり、日本のアンビエント・ミュージックを禅や瞑想のイメージと重ねる外国人は多くいます。

音楽は時代の空気を真っ先に感じ取り、様々な文化のハブとなって社会を刺激していくためのトライバーになる。このような音楽の先進性や拡張性に注目し、都市の総合的な文化力を測り、課題を可視化するのがCFPです。

ミュージックべニューはそこに集う人々とともに文化を作っていく

CFPは、「コンテンツ」「スペース」「フレームワーク」の3つの観点からミュージックべニューの文化的可能性を示し、課題を可視化しています。「コンテンツ」の分野では「プロモーション」「コミュニティの存在」「創造性」「実験性」「コンテンツの多様性」の5つの小項目を評価基準としています。

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総体として高評価であった「コンテンツ」ですが、その中でも特に高い評価を受けたのが「プロモーション」です。べニューを訪れる人が、飲食目当てではなく、アーティストやコンテンツ目当てに訪れているかどうかを問う項目です。東京のインディな音楽コンテンツのクオリティは海外諸都市のものと比べて遜色なく、海外からも好評を得ています。とりわけ渋谷、秋葉原、高円寺、下北沢といった地域には、その街のコミュニティやカルチャーを支えるユニークなミュージックべニューが多数存在します。

2009年8月にオープンした「秋葉原MOGRA」はアニメソングやボーカロイドなどを始めとしたアキバ系音楽から流行のクラブミュージックまで幅広く取り扱うDJバーです。クラブシーンが存在しなかった秋葉原にオープンしたMOGRAは、クラブカルチャーと秋葉原に根付くオタクカルチャーをミックスさせることで、独自の文化を育むことに成功し、外国人をも魅了する秋葉原固有の文化を支える地域のベニューとなりました。

渋谷で人気のミュージックバー「Bridge」の店長である有泉正明氏は、東京のミュージックべニューについてCFP中で以下のようにコメントしています。

クラブやミュージックバーは、レイ・オルデンバーグ氏が言うサードプレイスである。一人でふらっと立ち寄っても、店主や他の常連客に歓迎される。職場のような階級はなく、そこでは誰もが平等になれる。平等は社会的マイノリティだけが求めるものではなく、地位の高い人も欲しているし、観光客も同じだ。

多様な用途を持つスペースこそが新たな価値を生み出す

「スペース」の分野では「規模」「ロケーション」「運営年数」「スペースの多目的性」「SNSにおける評価」の5つの小項目を評価基準としています。

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「スペース」の5つの小項目の内、突出してスコアが高いのが「ロケーション」です。それぞれのベニューが最寄りの鉄道駅からどの程度近いかを評価するものであり、東京のスコアは9.85/10.00と非常に高い評価です。次いで高い評価を得ているのが「規模」です。東京はベニュー数がそもそも多いことに加え、固有のアイデンティティーと集客による経済性を持ち合わせた中規模のベニューが多いことが高評価につながっています。

この「スペース」において評価が比較的低いのが、「スペースの多目的性」です。そのベニューが複数の用途に利用できるか否かを問うものです。より多くの用途で利用できるほど、多様な客層を受け入れることができ、ジェントリフィケーション(都市の富裕層現象)が引き起こす不動産価格の上昇や中産階級の流入による労働者階級の立ち退きに対応できる持続可能性があるとしています。東京においては単一用途のミュージックベニューが多く空間利用の柔軟性に欠けるとして低いスコアになっています。

株式会社ライゾマティクス代表取締役社長の齋藤精一氏は「スペースの多様性」の重要性について、CFP中で以下のように意見しています。

都市開発にあたっては何をもっとその地域の価値とするかを考えるべきだ。その土地で営まれてきた文化の集積を価値とするならば、デベロッパーは文化に対する配慮をするべきである。事業採算的には、安定して高額の賃料を得られるオフィスを入居させるのが正解であろう。しかし他方で、文化施設があることで地域のブランド価値があがり、人が集まり消費や賑わいが場所が生まれる。都市開発ににおいて、このような様々な価値を多角的に捉えた上でのキュリエーションが極めて重要だと感じる。建物の使い方の柔軟性が地域にとっての競争力になってくるかもしれない。

音楽産業と行政が連携したアーティスト支援

「フレームワーク」の分野では「公共空間での文化的活動」「夜間の公共交通機関」「財政支援全般」「政策全般」「行政機関・意思決定者へのアクセスのしやすさ」の5つの小項目を評価基準としています。

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「政策全般」の項目はミュージックベニューの夜間帯の営業に対する行政の対応について問うものであり、行政が音楽シーンを抑圧していないか、警察組織が音楽イベントに強制捜査を実施していないか、などが評価の対象です。スコアは8.33/10.00と高評価です。高評価の理由としては、風営法が2016年の6月に改正され「特定遊興飲食店営業」の項目が新設されたことにより、一定の要件を満たせばベニューが合法的に深夜12時以降の営業を行えるようになったことが挙げられます。

しかし一方で、小規模ベニューは特定遊興飲食店営業の免許を取ることができません。このような店舗では、そもそも遊興営業を行っておらず、特定遊興飲食店営業許可が不要と思われる店舗も相当数あります。免許の取得が必要な店舗の範囲が曖昧であるため法的位置づけは不安定な状況にあり、仮に特定遊興飲食店営業該当するとしても許可取得が困難な場合が多いのです。問題解決のためには、法的規制要件のさらなる緩和や基準の明確化が求められます。

「財政支援全般」の項目は音楽関連施設に対する行政からの財政支援・助成金の有無を問うものであり、スコアは6.00/10.00となっています。評価者からのコメントには「財政支援がない訳ではないが足りていないという認識。」「クラシック音楽や伝統芸能に対する支援はあっても、ポピュラー、ロックについては支援が非常に少ない。」等が指摘されています。公的支援ではありませんが、アーティストやクリエイターを支える民間のビジネスインフラやサービスの拡充についての意見も多く寄せられています。

「フレームワーク」において特に評価が低いのが、「行政機関・意思決定者へのアクセスのしやすさ」です。ナイトシーンにとって行政へのアクセスは容易であるか、市と対等に議論できるナイトメイヤーなどの仕組みが確立されているか等が評価の対象となっています。

評価者からのコメントには「意思決定者へのアクセスは容易ではなく、行政へのと現場との認識の乖離を実感している。」「ナイトタイムエコノミー推進の政策により、アクセスは改善されているが、外国人コミュニティや女性コミュニティの参加が非常に弱く、男性目線の偏った意見が先行してしまっている。」等が挙げられました。

一方、海外に目を転じたとき官民連携の文化支援をいち早く成功させた国としてイギリスがあげられます。イギリスでは、音楽団体の役割と責任の範囲が明確化しています。 例えば、イギリスの著作権団体である「PRS Foundation」は、海外進出を目指すイギリス人アーティストを資金提供やショーケースライブなど様々な形で支援しています。

昨今目立つ若手イギリス人アーティストのSXSWや北米の音楽フェスへの出演も「PRS」の支援によるものです。既に成功した大物アーティストのセールスプロモーションを支えるメジャーレーベルの役割と、若手アーティストを支援する「PRS」の役割には明確なラインが引かれています。音楽シーンにおいて、助成金の利用や行政の支援機能の棲み分けがハッキリとしていることが、音楽産業や行政連携の透明性を高め、誰もが参加しやすい支援プログラムの構築に寄与しているのです。

今後、東京において音楽を通じた都市の総合的な文化力の向上を目指すとき、このイギリスの取り組みは大いに参考になるものと思われます。

未来を考える上でのヒントとなるレポートCFP

Night Design Labでは4回に渡りCFPの読み解きを行ってきました。第一回では人生の変革を促す旅のあり方として「トランフォーマティブ・トラベル」という概念を紹介しました。その土地を愛するという個人的な想いが観光客を魅了して地域に呼び込む力を持ちます。第二回ではアーティストが観光を支援し、観光がアーティストを支援するという文化復興と観光産業の良好なエコシステムの必要性について紹介しました。

第三回では、ローカルな魅力溢れる観光や都市こそが多様性を持った時代に求められるものであるというCFPの主張を読み解きました。そして、今回の記事ではCFPが行ったライブハウス、ナイトクラブ、ミュージックなどのミュージックベニューの調査を見ていくことにより東京の持つ魅力と課題を可視化しました。

CFPを読み解くことによって得られたこれらの知見は、ナイトタイムエコノミーに関わる人だけでなく、文化・観光・都市に関心のある全ての人に対して、未来を考える上でのヒントとなることでしょう。

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