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2023
行政・デベロッパー・アーティストの連携により生まれ変わる「NDSM造船所」。クリエイティブなアーティストや起業家の集まる都市をつくるためには?──調査レポート「CFP」を読み解く Vol.3
「Creative Footprint TOKYO」(以下、CFP)」とは、観光庁主導によるナイトタイムエコノミーの推進施策のうちのひとつである「夜間帯の文化価値の評価に関わる調査」をまとめたレポートです。ナイトタイムエコノミーを含む体験型観光を観光業だけに完結するのでなく文化復興やまちづくりと有機的に連結させることを主張しており、単なる調査にとどまらず課題解決に向けた提言と、提言を実行していくためのステークホルダーの関係構築を目的としています。
前回の記事では、文化復興と観光産業の良好なエコシステムについて考えました。COVID-19以降の世界では、アーティスは観光産業をアップデートし、観光産業はアーティストを支援するという姿勢が求められます。
今回は、「文化とまちづくり」に注目し、文化復興とまちづくりが連携しともに発展していく姿を考えたいと思います。
CFPでは、これからの「文化とまちづくり」を考えるにあたって、現在の東京の立ち位置を、グローバルな視点から比較した2つのランキングをもとに考察しています。
森記念財団都市戦略研究所による「世界の都市総合力ランキング」(Global Power City Index, GPCI)は、国際的な都市間競争において、人や企業を惹きつける“磁力”は、その都市が有する総合的な力によって生み出されるという考えに基づき作成されたものです。GPCIでは、世界の主要都市の「総合力」を経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスの6つの視点で評価し、順位付けしています。
2019年版のランキングによると東京の総合力はロンドン、ニューヨークに次ぐ3位です。分野別にみると「経済」4位、「研究・開発」3位、「文化・交流」4位、「居住」11位、「環境」23位、「交通・アクセス」8位となっています
総合力1位のロンドンと東京を比較すると「文化・交流」のスコアの間に最も大きな開きがあります。「文化・交流」の測定指針の1つである「ナイトライフ充実度」ではロンドン、バンコク、アムステルダム、バルセロナ、ニューヨークとそれぞれ固有の文化的魅力で知られる都市が上位5位に入っていますが、東京は13位となっています。
一方、英国のライフスタイル誌『MONOCLE』による「Quality of life survey」は、世界の主要都市を文化やライフスタイルといった観点から評価するランキングです。2019年版のランキングでは、東京はチューリッヒに次ぐ2位です。『MONOCLE』誌の東京の高評価から読み取れるメッセージは、東京の魅力は安全や効率性だけでなく、世界的な大都市になってもなお点在する”町”に残るコミュニティ感やスト―リー、そして食を始めとする文化の豊かさと奥深さにあるということです。
東京が都市の総合力においてニューヨークやロンドンのような大都市と並ぶのと同時に、クオリティ・オブ・ライフという点でチューリッヒやコペンハーゲンのような比較的小規模な都市とも並ぶということが、東京の都市としての魅力です。以下、『MONOCLE』誌による東京に対するコメントを紹介します。
文化から安全面、食から礼儀正まで、東京は全てをカバーしており、そこに住まうもの、そこに訪れるものに対して、最良のクオリティ・オブ・ライフを与えている。
我々は、他のどの都市にもない東京の独特な「小さな町の温かみ」と「巨大な都市の興奮」の混在に、いまだに虜になっている。
一般的な都市開発の現場では、オフィス・商業・住居などの諸機能と面積、及び交通やエネルギー消費の効率性などの機能価値が優先される傾向があります。しかし、一定の機能要件が既に満たされ、その充足度での差別化が困難な成熟した都市では、『MONOCLE』誌が重要視するような都市の文化度やライフスタイルと言った感性価値がより重要になります。
感性価値の高い都市の実現にカギとなる要因は多様性です。米国の都市計画家ジェイソン・ジェイコブスは「アメリカの大都市の生と死(1961年)」で、都市が多様性を持つための条件として以下の4点を挙げています。
1.用途の混在
地区の内部の多くの場所において、主要な用途が2つ以上存在する。
2.小さな街区
街区のほとんどが短い。街路が頻繁に利用され、角を曲がる機会が頻繁に生じる。
3.新旧の建物の調和
年代や状態の異なる様々な建物が混ざり合う。建物がもたらす経済的な収益が多様である。
4.人々の集積
目的がなんであるにせよ、人々が十分に高密度に集積する。
用途が混在し、多様な人々が共存する街。小さな街区のいたるところに路地があり、移り変わる景色と新たな文化の芽が次々と生まれる街。そして街を歩く人々にとって、偶然の出会い(セレンディピティ)に溢れた街。このような街の姿を描いたジェイコブスの指摘は、文化とまちづくりを結びつける上で重要なヒントとなるはずです。
以下では、多様性を重視しアートの力で荒廃した地域を再生することに成功したオランダ・アムステルダム北部のNDSM造船所の事例をみていきます。
NDSM造船所は1984年のオランダ造船会社(NDSM)の倒産以降、社会活動から見捨てられた場所となっていました。それに伴いアムステルダム北部のこの地域は荒廃し、経済的にも困窮していました。
1999年、ロビイストで事業家のエヴァ・デ・クラーク氏は、「社会から見捨てられた地域、施設に新たな可能性を見出し再び社会に提供すること」を目的とし、アーティストやフェスティバルオーガナイザー、演劇の制作者や建築家等を招聘し、NDSM造船所を再生するプロジェクトチームを立ち上げました。
彼女らはNDSM造船所をKunststud(芸術の街)Skatepark(スケート公園)レストラン”Nooderlight"を核とした新たな施設として生まれ変わらせることに成功しました。かつての見捨てられた場所は実験的な空間であり、出会いの場所であり、また多くのアーティストや起業家にとって絶好のスタートポイントであり、成長を育んでくれる棲処のような場所へと変化していきました。
2002年、NDSM再生プロジェクトは都市開発計画および環境経済省より「オランダにおける都市再生の手本」として推薦され、以降アムステルダムの文化的最新スポットとして注目され続けています。
現在、NDSM造船所の倉庫には200人以上のクリエイティブなアーティストや起業家が入居するアートシティがあります。80以上のスタジオとアトリエが立ち並び、倉庫全体が一つの「まち」を形成しています。また、大型船舶を使ったアンダーグラウンドミュージックと実験芸術のフェスティバルやインターナショナル・アート&テクノロジーフェスティバルなど実験性に富んだ様々なイベントが数多く企画されています。今では、かつて一旦は運行を停止していたフェリーも、アムステルダム中央駅とこの地域との往復ルートを再開させるに至っています。
このように文化には都市を活性化する力があります。そして、文化によって活性化され多様性を持った都市では、さらに新しい文化が自然発生的に生まれ発展していきます。これまで見てきたように文化とまちづくりの良好な関係性を作る為には行政やデベロッパー、アーティスト等の一層の連携が必要不可欠なのです。