Top

About

Case Study

Contact

お忙しい方向けのPDFを配布中

私たちの担当した事例を、読みやすいPDFにしてまとめました。サイトを見るお時間が無い方は、ぜひ無料でダウンロードしてみてください。

無料で資料ダウンロード

Blog

2023

「連帯こそが鍵を握る」ベルリン、ナイトカルチャーを担うクラブは、どうやって困難に立ち向っているのか【現地レポート】

世界有数の充実したナイトイベントが開催される都市ベルリン

ベルリンの壁崩壊以降、東西の分断された価値観をつなげる役目を果たしてきたベルリンのクラブカルチャー。スクワット(不法占拠)から始まった歴史だけあり、リーガルとイリーガルのグレーゾーンを掻い潜って生まれた文化だ。

その一方で世界有数の充実したナイトイベントを求めて、世界各国から訪れる人が絶えなかった。しかし新型コロナウイルスによる3月のベルリンのロックダウンをきっかけに海外からの客足は途絶え、クラブは一時閉鎖を余儀なくされた。7月に入ってから段階的ではあるが、徐々に制限が解除される動きがあった。

現在ベルリンのクラブはどのように危機に対応しているのだろうか。これまでの行政の取り組み、ベルリンのクラブを統括して管理する団体、そして各クラブの対応を現地からレポートする。

業界団体・ベルリンクラブコミッションの早い動き

新型コロナウイルスの影響でベルリンのクラブが閉鎖を余儀なくされたのが3月13日。そこでベルリンのクラブ産業従事者9000人以上が実質の失業状態となってしまった。

この事態を重くみたベルリンの業界団体クラブコミッション(CLUB COMMISSION)は「ベルリンのアイデンティティを生み出す多くの場所が破滅の危機に瀕している」と表現し、わずか5日ほどでストリーミング配信とドネーションサイト「ユナイテッド・ウィー・ストリーム(United We Stream)」を立ち上げた。

ストリーミングではほぼ毎夜、ベルリン内のクラブをはしごしながら、DJが配信を行い、寄付を募ってきた。8月28日現在で454.614,37 €(約5700万円)の寄付が集まっている。業界団体として、スピード感をもって対応したことでベルリンが有するクラブの緊密さが浮き彫りになった印象を得た。「連帯こそが鍵」と以前別の媒体で取材した際にクラブコミッションのメンバー・ルッツ(Lutz)が発言していた。

ドイツ全体、市政府からの手厚くスピード感のある対策

また、市政府の対策も手厚い。

ベルリン市ではこれまで3,000万ユーロ(約37億円)をアートやナイトライフ関連のヴェニューを支援するために支給。アバウトブランク(://about blank)、トレゾア(Tresor)、ケーター ブラウ(Kater Blau)などのヴェニューが、すでに平均8万1,000ユーロ(約1,000万円)を受け取り、閉鎖を免れた。(『TIME OUT TOKYO』より)


旧東ドイツ側に位置するケーター ブラウ(Kater Blau)をはじめとするオープンエアーのクラブは7月からビアガーデンとしていち早く会場を開けていた。DJが時折プレイしながらも、ダンスはNGとされた。1998年、前身のオストグット(Ostgut)の時代を含めると20年以上の歴史を誇る老舗クラブであるベルグハイン(Berghain)の毎週末のイベントは、建物の野外ステージのガーデンのみで再開されている。ダンスフロアでもマスクは必須だ。

8月より、オキシーガーテン(OXI Garten)では、「OXI OPEN AIR」と題したイベントを開催。23日に行われたイベントでは、人気DJ・ガード・ヤンソン(GERD YANSON)がプレイするだけあり、多くの人が詰めかけた。

訪れようとした友人曰く、開始時間の12時には行列ができており、友人やリストに入れられた人間だけでいっぱいになってしまったようだった。情報を聞きつけた筆者は会場付近で諦めてしまった。それでも数時間待つ人たちの列ができており、不満の声が聞こえた。これまでと同じく、観客すべてが満足するようなイベントを開催するのは、そう簡単ではないことが窺い知れる。

画像1

FB:https://www.facebook.com/OXIGarten
Instagram:https://www.instagram.com/oxi_garten/

アメリカの一大フェス「バーニングマン(Burning man)」のスピリットを受け継いだバーニングキャッスル(Burning Castle)というイベントが8月の最終週に開催された。しかしその実イベントは完全招待制だった。ベルリンのクローズドなコミュニティファーストの様相を呈していた。

そもそもベルリンの壁崩壊以降、90年代初頭にかけて使われてない建物を占拠し、勝手にレイブを開催していたことがそもそものベルリンクラブカルチャーのはじまりということもあり、その流れを汲んでいるのだろうか。

画像2

(ウェブサイトのキャプチャ画面。チケットを手に入れるためにはパスワードが必要。「友達からパスワードをゲットしてね!」との文字が)

一方、閉鎖的な空間でも趣向を凝らしたイベントが徐々に再開されている。「モノム(MONOM)」と呼ばれる4Dスピーカーを有するアンビエント系のDJイベントをメインとするクラブでは、時間と人数を制限して過去のライブ音源等を利用したリスニングパーティーを開始。中での会話は厳禁だが、イベントが行われている。

8月29日と30日には、プース・マリー(Puce Mary)の試聴会が行われた。深夜にはバーエリアでアフターパーティーと題したDJイベントが行われた。筆者もイベントに参加したが、同じイベントの参加者であるドイツ人の40代男性にベルリンのクラブの状況について話を持ちかけると「私たちもこれからクラブがどうなっていくかわからない。けれど、今音楽が流れている状況を楽しむだけだ」と語ってくれた。

画像3

(MONOMの外観。この重たい扉の奥では、部屋が真っ暗にされた空間が広がり大きなスピーカーでインダストリアルなアンビエントテクノを聴くことができた。)

コミュニティの中に属している人向けにまずはクローズドなイベントを通じて、楽しむ場を提供する。そしてクラブカルチャーの規模は縮小してもアンダーグラウンドとオーバーグラウンドを行き戻りしながら、留まったり消え去ることはないと確信したような事例だった。

老舗クラブ・ベルグハインではギャラリーとしての利用がはじまる

クラブを別のかたちで利用する動きも始まってきている。ベルグハインでは、9月9日から12月まで「スタジオ・ベルリン(STUDIO BERLIN)」と題し、プライベート美術館「ボロス・コレクション」との提携で大規模なアートイベントを開催。世界的に活躍する写真家・ウルフギャング・ティルマンスをはじめ総勢100組を超える現代アーティストが集結。

これはパンデミック以前に計画されていた大規模なアートイベントが中止になったことに対する対抗策でもあり、完全にシャットダウンされてしまったベルリンのナイトイベントを保護するという観点から鑑みたタッグと言える。ベルリンテクノを味わう場所としてではなく、アート作品を鑑賞するスペースとして深刻な状況を打破しようとする試みに注目が集まっている。

チケットはオンライン予約制に完全に移行し、入場券を管理することで、感染の対策を万全にして行われはじめた。ただ、「チケット代20ユーロに対して、アーティストへのギャランティが一律150ユーロだ」という情報がリークされ物議を醸している(真偽は不明)。現在、このイベントの是非について、ベルリン在住のアーティスト達の間で議論の対象になっている。

ルールに則らないレイブパーティーの摘発も

8月27日、この秋以降の新型コロナウイルス対策の一環として「12月末まで大規模なイベントは行えない」とメルケル元首が発表した。このことから考えると、クラブを取り巻く環境は必ずしも芳しいとは言えない。ガイドラインに乗っ取らない、個人が企画したレイブやイベント開催について、近隣住民からは反対の声があがり、中止に追い込まれている事例もある。クラブ側の企画でないにしろ警察が出動して、取りやめになったイベントもいくつも耳にする。

そうした状況も加味した上で、クラブごとに創意工夫前提の営業再開が求められている。結局のところ、現時点では各クラブが業界団体から受け取った寄付と支援政策がメインで、各々のクラブに対策を任されているというわけだ。

現段階で状況を整理すれば、クラブ、イベント主催者、DJ、参加者、市民、それぞれの立場でさまざまな状況の人たちの思惑が錯綜していると言わざるを得ない。ベルリンも優れた面だけではなく、未だ新型コロナウイルスによる状況の変化がもたらす混乱の最中、手探りで可能性を模索している。そういう意味合いも込めて、ナイトカルチャーをリードしてきたクラブや業界団体には頭が下がる思いだ。

国をまたぎ、ナイトカルチャーの困難に立ち向かう

クラブコミッション側の人間でもあり、VibeLabと呼ばれるエージェンシーに所属するLutzはベルリンにとどまらず世界のナイトカルチャー産業に従事する人たち向けに世界各国のケーススタディの情報発信をするべく、「NIGHTTIME.org」と呼ばれるサイト内に「The Global Nighttime Recovery Plan」という資料を無料公開している。

ベルリンクラブも秋冬以降、業界団体や世論の動きと足並みを揃えながら、各自対策を講じたイベントを企画していくと思われる。人数制限の憂き目にあっても、形を変え、やり方を変えながら続けていくことでしかクラブ産業の残る道はないのかもしれない。今試されているのは、音楽イベントのあり方、クラブカルチャーの未来そのものなのだから。

Share our project!!
Thank You.